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363 名前:名無し三等兵[age] 投稿日:2005/12/22(木) 13:24:27 ID:???
摩耶に乗っていた小猿の話し
航空機作業甲板は後檣(こうしょう)に接し、両舷に射出機をそなえているが、
午前八時の軍艦旗揚げ方と日没時の降し方とに、当直将校が衛兵隊を指揮して
嚠喨たるラッパとともに捧げ銃の礼をとる場所でもある。
軍艦隊の掲揚降下は、非直の者も上甲板にでて軍艦旗を仰いで敬礼をする緊張の
ひとときであるが、一週間ほどで小猿はこれを覚えた。
鎖を一杯にのばして作業甲板にはいあがり、さすがに挙手はできないが、
両腕を腰にあて、ガニ股ながら不動の体制をとり、ラッパ吹奏中くずさない。
本艦の厳正たる軍紀は猿にまでおよんだ、と甲板士官・堀江一間中尉はご満悦であった。
赤道直下の炎熱にあえいで、世話係の搭乗員になけなしの清水でからだを洗って
もらったりしているこの小猿は、兵隊の位を識別するに長じていた。
若い搭乗員からメシをもらっている時でも、先任下士官が通りかかると、たちまち
むきを変えてお愛想をふりまき、そこへ中尉があらわれると先任に尻をむけて敬意を表する。
防暑服の階級章が読めるわけでなし、雰囲気から察するのであろうが、とにかく
位階勲等に敏感な猿で、そばでこのヤローとばかり横目で小猿の横顔をにらみつけている
その搭乗員の表情は、何度もガンルーム(士官次室)の笑いのタネとなった。
…その猿は、「あ号作戦」に敗退し、マリアナを去った後、陸上基地へと移送されたそうである。
熾烈な戦闘の犠牲にするわけにはいかないと、搭乗員たちの心配りであった。
錨地で繋留中の摩耶の舷梯をはなれて、逸見の波止場にむかう内火艇の船室に腰をおろし、
抱きかかえた小猿の頭を黙々と撫でていた搭乗員の心根を想うと、私は言葉を失う。
――――――重巡・摩耶艦上に小猿一匹