480 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2014/04/29(火) 00:22:57.05 ID:Li+oeUWc [1/2]
「長く持たないな」
そう思ったのはポールだけではなかった。
ベルリン爆撃の帰路、数十の敵機が前上方から襲いかかった。
爆撃機編隊は大きな損害を受け、墜落して行く機も出始めていた。
ポールのB-17も高射砲弾を受けて今や二発のエンジンが停止し、それも敵機の銃撃で残り一発となった。次の銃撃はコクピットを貫き、コパイの頭を吹き飛ばした。
その数秒後には動力銃座で頑張っていた航空機関士が転がり落ち、腕に重い銃創を負っていた。
ポールは揚力を失う機と格闘したが、まず英本土へ辿りつけないと判断し、全乗員を脱出させた。
最後、きりもみに陥った機から彼が飛び出すと、上空では今も激しい攻撃が続いていた。
この恐ろしい時間の後、ポールは無事畑地へと降りられたが、パラシュートを埋めようと夢中になり、時間を食ってしまった。
そうして彼が一息つくと、遠くで手を振っている人影を認めた。
「しめた! レジスタンスだ! 僕はついているぞ!!(だがここはドイツだ!)」
ポールは逃げ出し、相手は軍用犬を放った。しかし彼は悪夢の中でそうするように、極めて鈍くしか走れなかった。
巨大なドーベルマンはポールの尻に噛みつき、ポールは大人しくなった。
追って来たドイツ兵は犬を落ち着かせ、ポールに言った。
「お前にとってツァ・ヴァル(ザ・ウォーのドイツ語訛り)は終わったのだ!!」
481 名前:名無し三等兵[] 投稿日:2014/04/29(火) 00:29:43.24 ID:Li+oeUWc [2/2]
しかし、ポールの戦争は終わっていなかった。
一年後、一年振りのシャワーの最中に突入してきたシャーマン戦車の砲撃で死にかけた彼は、ようやく悲惨な捕虜生活から解放されたものの、その五年後には朝鮮半島でヘリを飛ばしていたのだ。
ポール・ヴァン・ヴォーベン中尉は第三航空救難飛行隊(3ARS)F分遣隊に所属し、緊急搬送任務で何度か前線へ飛んでいた。
だから直属の上官、レイ・コステロ大尉に呼び出された時、その言葉を熱心に聞いた。
“ 敵地で友軍機が撃墜され、パイロットの近くには敵部隊が迫っている。
友軍の編隊が上空を旋回して援護しているが、海からの救出には時間が掛かり、到達するまでにパイロットが失われる恐れが大きい ”
状況説明を終え、大尉は言った。
「君が望むなら、情況を見る為に飛んでもよい。しかし戦線を越えないようにして欲しい。我々はそこまでは要求されていない」
大尉はそこで一瞬ためらい、
「そうだな、これについては君自身で決めてくれてもよい」
と付け足した。
ポールは飛行帽と皮ジャンパーを抱え、哀れな航空医療員ジョン・フェンテス軍曹を呼びに行った。
もし自分がそれを防ぐ力を持っているのであれば、仲間をあのような悲惨な運命に任せてしまうことは出来ないと、ポールは強く考えていた。
彼はこの数時間後、戦場から糞まみれの男を救い出し、初の戦闘中捜索救出任務(戦闘SAR)を成し遂げた。
クリムゾンスカイ-朝鮮戦争航空戦-より
(J.R.ブルーニング 著/手島尚 訳)
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