444 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 02:40:37.76 ID:???
さあ、軌道修正だ。
1950年夏、朝鮮半島上空で航空阻止に励むアメリカ軍パイロット達は、自分の中である心配事が膨らみ続けているのを感じていた。損害が増加し続け、その多くは敵勢地域に墜落している。
つまり、次に自分が撃墜されたとして、一体誰が助けてくれるのか? と。
折しも9月4日、第35戦闘爆撃飛行隊(35FBS)のボブ・ウェイン大尉は、釜山北北東150km、浦項近郊の水田地帯で牡牛と対峙していた。
彼は撃墜されたF-51のパイロットで、近々子供が生まれるというのに火災によって重い火傷を負い、眉毛も髪もなく、何より地上攻撃機のパイロットを激しく憎む敵部隊の只中に孤立していたのである。
「なんてことだ、僕は牡牛は苦手だぜ」
ボブはそろそろと牡牛から逃れ、35FBS/C小隊の機銃掃射の助けもあって排水溝に飛び込み、目に付いた堆肥の山に潜り込んだ。
前日の攻撃で撃墜されたオーストラリア軍パイロットの救出に渦巻き鳥が飛んできたことを知っていたから、その物珍しい姿が現れるだろう南を向き、体の周りで蠢く虫と火傷の痛みに耐え続けた。
一時間過ぎ、それからまた半時間が過ぎた。その間に敵部隊は彼を十分に包囲し、頭上で援護してくれていた国連軍機も次々に引き揚げていった。しかしC小隊だけは援護を止めなかった。
ボブは助けが来るまでに一時間程掛かることを知っていたから、時間が刻々と過ぎて行くのに酷く沈んだ気持ちになった。そうして銃声と爆音の狭間から、特徴的な爆音が響き始めたのである。
つづく
445 名前:444[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 02:44:43.63 ID:???
つづき(長くなっちゃった…すまぬ)
釜山北80kmの飛行場から発進した第三航空救難飛行隊(3ASR)のポール・V・ボーベン中尉が操縦するH-5は、医療要員のジョン・フェステロ軍曹を乗せ高度300mで墜落現場へ急行していた。
彼は第二次大戦中B-17の機長であり、撃墜されてドイツ軍の捕虜になった経験があったから、このような任務に熱心であった。
彼は目的の空域の直前で舵を切り、大きく迂回して北からの接近を図った。これで敵を少しでも動揺させようと試みたのである。
渦巻き鳥の爆音にボブは飛び出し、ジャンパーを開いて下着の白いシャツを引き裂き振った。墜落したF-51から上がる白煙が発炎筒代わりとなり、ポールとジョンはその周囲にすぐボブを見つけることが出来た。
ポールはボブの居る水田の土手に機を滑り込ませ、100mにまで迫って彼を撃とうとしていた敵兵はC小隊が片付けた。必死に駆け寄って来たボブをジョンが掴み上げ、すぐさま飛び立ったH-5の中でボブは叫んだ。
「僕を板付へ連れて行ってくれ!!」
一時間後、アルミ外板に幾つか穴を開けた渦巻き鳥が堆肥まみれのパイロットを乗せ、大邱K-2飛行場に着陸した。
ボブはこの信じられない冒険談を新たな二人の友人に語って聞かせたが、それは飛行場のテントでも続き、列機の戦友と生還を祝いながらバーボン片手に興奮していた。そこへ誰かが板付行きの輸送機があると知らせた。
「それは有難い。僕はまだ糞塗れなんだけどな」
つづく(許してくれ…)
446 名前:444[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 02:57:19.10 ID:???
つづき(これで最後だ…)
夕方、C-46に転がり込んだボブはバーボンのおかげで少し眠ることが出来た。暫くして覚醒した彼は、操縦席に赴いて板付までどのくらいかと聞いたのだが、便乗者が居るとは知らない乗員を酷く驚かせてしまった。傷だらけで、なにしろ堆肥まみれなのである。
それはそうと、板付上空は悪天候だった。乗員は相談の末に行き先を変えようとするも、板付をホームベースにしていたボブの助言で無事着陸した。
ここで彼は、驚くべきことに初めて治療を受けたのである。尻一杯にペニシリンを打たれ、薬と包帯でミイラのようにされたボブは、妻に会いたい一心で翌朝の大阪行き輸送機に転がり込んだ。
眉と髪が焼け落ち、包帯と軟膏まみれな上に染み出した体液で異臭を放つ男が突然病室に現れたので、ボブの妻は驚愕した。しかしすぐに夫だと気付いた彼女は、どうしても彼に聞かなければならなかった。
「それで、あなた、一体何があったのですか?」
ボブは妻の腕に抱かれた赤ん坊を優しく見つめ、努めて平静を装って答えた。
「やあハニー。ライターにオイルを入れようとしていて、ちょっとヘマをやっちまったのさ」
これが史上初の捜索救出(SAR)任務の顛末である。
米軍初のジェット戦闘機による撃墜戦果を達成した、ボブ・ウェイン大尉を救出したポール・V・ボーベン中尉にはシルバースター勲章が授与されたそう。
この救出劇を影で支えたのがエドウィン・ロウ大佐。マッカーサー元帥の動向と朝鮮半島の戦況を注視するよう大統領の密命を帯びた高級将校で、9月4日は丁度T-6前線航空指揮機に搭乗していた。
ボブのF-51が墜落した時、彼は現場に急行して指揮を執り、周辺の作戦機を集めてボブを援護させた。これがあったからボブは堆肥の山に隠れられたんだろう。
よし、寝るか…
光人社NF文庫
ジョン・R・ブルーニング著/手島尚訳
「クリムゾンスカイ-朝鮮戦争航空戦-」~第二章-戦闘SARの誕生-より。
447 名前:名無し三等兵[sage] 投稿日:2013/10/09(水) 08:48:26.45 ID:???
ウンが良かったんだね(言わずにはいられない
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